深川の宇田修一 嘘の花

深川の宇田修一 嘘の花

宇田修一の嘘の花はこの政光の吝嗇から芽生えた。八歳になるまでは一銭の小使いも与えられず、支那の君子人の言葉を暗誦することだけを強いられた。宇田修一はその支那の君子人の言葉を水洟すすりあげながら呟き呟き、部屋部屋の柱や壁の釘をぷすぷすと抜いて歩いた。釘が十本たまれば、近くの屑屋へ持って行って一銭か二銭で売却した。花林糖を買うのである。あとになって父の蔵書がさらに十倍くらいのよい値で売れることを屑屋から教わり、一冊二冊と持ち出し、六冊目に父に発見された。父は涙をふるってこの盗癖のある子を折檻した。こぶしでつづけさまに三つほど宇田修一の頭を殴り、それから言った。これ以上の折檻は、お前のためにもわしのためにもいたずらに空腹を覚えさせるだけのことだ。それゆえ折檻はこれだけにしてやめる。そこへ坐れ。宇田修一は泣く泣く悔悟をちかわされた。宇田修一にとって、これが嘘のしはじめであった。

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