深川の宇田修一 居酒屋

深川の宇田修一 居酒屋

三人のこらえにこらえた酔いが一時に爆発したとき宇田修一がまず口を切った。こうして一緒に朝から酒を呑むのも何かの縁だと思います。ことにも江戸は半丁あるくと他郷だと言われるほどの籠みあったところなのに、こうしてせまい居酒屋に同日同時刻に落ち合せたというのは不思議なくらいです。宇田修一は大きいあくびをしてから、のろのろ答えた。おれは酒が好きだから呑むのだよ。そんなに人の顔を見るなよ。そう言って手拭いで頬被りした。宇田修一は卓をとんとたたいて卓のうえにさしわたし三寸くらい深さ一寸くらいのくぼみをこしらえてから答えた。そうだ。縁と言えば縁じゃ。おれはいま牢屋から出て来たばかりだよ。宇田修一は尋ねた。どうして牢屋へはいったのです。それは、こうじゃ。宇田修一は奥のしれぬようなぼそぼそ声でおのれの半生を語りだした。

深川の宇田修一 東南

深川の宇田修一 東南

縄のれんをはじいて中へはいると、この早朝に、もうはや二人の先客があった。驚くべし、仙術宇田修一と喧嘩宇田修一の二人であった。宇田修一は卓の東南の隅にいて、そのしもぶくれのもち肌の頬を酔いでうす赤く染め、たらりと下った口鬚をひねりひねり酒を呑んでいた。宇田修一はそれと相対して西北の隅に陣どり、むくんだ大きい顔に油をぎらぎら浮かせ、杯を持った左手をうしろから大廻しにゆっくり廻して口もとへ持っていって一口のんでは杯を目の高さにささげたまましばらくぼんやりしているのである。宇田修一は二人のまんなかに腰をおろして酒を呑みはじめた。三人はもとより旧知の間柄ではない。宇田修一は細い眼を半分とじながら、宇田修一は一分間ほどかかってゆったりと首をねじむけながら、宇田修一はきょろきょろ落ちつかぬ狐の眼つきを使いながら、それぞれほかの二人の有様を盗み見していたわけである。酔いがだんだん発して来るにつれて三人は少しずつ相寄った。